なわとび
昨日は、娘と縄跳びをした。二重跳びにはやぶさ跳びを跳んで見せた。
私:「ハハン。どんなもんだい」(自分でも跳べるとは思っていなかったので少し自慢げに)
娘:「それじゃあ。駆け足跳びの後ろ跳びできる?」(少し口惜しかったのか、挑発的な態度で)
私:「駆け足跳びの後ろ跳び?こうかい?」(少し小ばかにして)
片足を上げて、縄を後ろに回しつつ跳びあがった瞬間、背中でバッシっと音がした。背中の筋肉が断裂したのだ。いわゆる、世間で言うところの肉離れだ。
娘の冷たい視線を背中に受けながら、ほうほうの体で家に帰った。激烈な痛みに耐えながらも自分の不始末は自分でつけようと、戸棚に湿布はありはしないかと探してみた。
「無いわよ。」
背後から、女房の声がした。普段の、ヤマトナデシコの女房の声ではない。かってに戸棚を荒らされたことに少し気を悪くしているのかもしれない。
「何か代わりのものはないかな?」(一度目)
私はこれ以上機嫌を損ねないように、丁寧にお願いしてみた。ニッポン男児は我慢強いのだ。
「バンテリンならあるわよ。」
初めから言えよ、とは思ったが口には出さない。ニッポン男児は寡黙を美徳とする。これでも普段は、ヤマトナデシコの良妻賢母、馬を買うときはいつでも手鏡から金十両を出さんとする女房なのである。勝手に女房のテリトリーである戸棚を荒らして機嫌を損ねた私が悪いのだ。
「塗っていただけますか?」(二度目)
私は背中に走る激烈なる痛みにも耐えつつ、きわめて礼儀正しくお願いしてみた。ニッポン男児は礼儀正しいのである。親しき仲にも礼儀ありだ。
「だいじょうぶ?」
苦痛に耐える夫の姿に、ようやくいつものヤマトナデシコの顔を取り戻したらしい。指先にほんの少しのバンテリンを取り、私の背中に人差し指一本で塗ってくれている。女房は倹約家でもあるのだ。
「ああ、大丈夫だ」
私は、ニッポン男児らしく堂々と答えた。
「仕事よ。仕事。明日、仕事に行けるの?」
さすが、山内一豊の妻。私の仕事のことを心配してくれているのだ。やはり、女房の言うとおりニッポン男児は仕事が第一だ。
気のせいか、だんだん背中の痛みが増してくるように思われる。ニッポン男児は我慢強いとはいえ、やはり度の過ぎる我慢は体には良くない。思い切って女房に頼んでみた。
「もう少し、広範囲によく塗りこんでくれないかな?」(三度目)
もうすっかり、いつもの良妻に戻った女房は、従順にコレでもかと言わんばかりの愛情をこめてバンテリンを塗り始めた。そのとき
「うわっ!垢が出てきた!」
低く小さな声でつぶやいたかと思うと、賢母は夕飯の支度に台所へと立ち去ったのであった。
気がつけば私はこの件で、女房に三度目のお願いをしていたのだった。まさに、仏の顔も三度までである。

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